月刊誌致知2010年1月号の鈴木秀子さんの記事より。

中村天風さんに以下のような話があります。
天風さんは三十歳の時に結核を発病し、当時一流と呼ばれた学者や医者を求めてヨーロッパを旅しますが、納得する答えは得られませんでした。
諦めかけて帰国の船に乗り込んだところ、インドのヨガの聖人カリアッパと出会いました。

カリアッパは天風さんをヒマラヤの山奥へと連れて行き、毎晩自分の後をついて歩くように言います。真っ暗な中、師匠の足下だけを見ながら一歩一歩歩いて行く修行が続きました。

ある時、天風さんは朝の光の中で自分が毎晩のように歩いていた道を見て驚きました。それは山の絶壁に通った一本の細い道だったのです。少しでも横を見たら、足がすくんで深い谷底へと落ちてしまいます。真っ暗な中、脇目もふらず、ひたすら師匠の後を追うことだけに気持ちを集中できたからこそできたことでした。

ここにも多くの教訓があるように思います。絶壁の右側にあるのは過去、左側にあるのは未来です。過去を憂い、未来に不安を覚えれば、ズルズルと谷底に引き込まれてしまいます。

たとえ絶壁のような環境にあろうと、ただ目の前の一歩一歩に気持ちを集中していく。真心を込めて目の前に現れた課題に取り組んでいく。そのことが幸せに繋がる道標であると思います。
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