青年はトラックの運転手でしたが、赤信号で停止中にトコトコと前に出てきた二歳の男の子に気づかず、前輪で巻き込み死亡させてしまいました。
意図してやった訳ではないので、過失致死と見なされました。事故を起こして以来、青年は悶々と悩み、自己を責め裁くようになります。
青年を担当した弁護士は言いました。「人生では何も悪いことをしていないのに、思いがけない災難に遭うことがある。思い悩めば、心の中に新たな二次災害を引き起こしてしまう。
だから、とにかくいまやることだけに心を集中し、過ぎ去ったことは考えないようにしなさい。辛い出来事にも深い意味があったと、いつか気づく日が必ず来るはずだから」
青年は一つの作業に気持ちを集中しようと心に決めました。しかし、労働を終えると事故の記憶がよみがえってきて、頭がパニック状態になりました。
ある時、弁護士は青年に自分がたどってきた歩みについて話し始めました。それは弁護士がまだ新聞記者をしていた頃の話でした。
実はこの弁護士も車を走行中に真っ暗な中でうずくまっていた老人を撥ね、死亡させた経験がありました。老人のポケットから「自殺したいが死ねない。轢いて欲しい」という自筆のメモが見つかり、自殺と認定されたものの、弁護士にとっては自分が死んでしまいたいほど耐えがたい苦しみでした。
しかし、心身ともボロボロの中にあって一つの思いがこみ上げてきました。
「この苦しみには、もしかしたら自分で知り得ない深い意味があるのかも知れない」
この気づきは弁護士の人生を大きく変えました。自分と同じ悩みで苦しんでいる人たちの救済のために人生の全てを捧げようと一大決心をし、新聞記者をやめて、猛勉強の末に弁護士となりました。
この言葉を聞いた青年の表情には次第に明るさが戻りました。
弁護士との出会いが青年にとっては、かけがえのない「計らわれた出来事」の一つだったことは言うまでもありません。
私たちは自分でも気づかない計らいの中で生かされています。辛い過去にいつまで縛りつけられるのは愚かです。
いまは分からなくても、そこに深い意味があると信じる。未来は天にお任せするつもりで、今、この瞬間、やるべきことに精一杯の努力をしていく。そういう生き方をしていれば、必ず明るい未来がもたらされると確信しています。
***
少し長いですが、長く引用しなければ最後の文章の意味が分からないと思いましたので、長く引用しました。
「今、この瞬間、やるべきことに精一杯の努力をしていく」の大切さは誰もが納得することですが、中々それを実践することができません。
しかし、上述の弁護士のような実体験をした方の話を聞くと、実践しようという気持ちが心の中で湧き出てきます。
カテゴリ
タグ