家が貧しく中学を卒業すると働きに出なければいけなかった少女が社会に巣立つ日の朝、お祖母さんが彼女に社会で生きる心構えを諭しました。
「これから様々なつらい経験をするかもしれない。でも決して人と比較して羨ましがってはいけないよ」
するとそれを聞いていたお祖父さんが、
「いや、この若さで、人を羨ましがらないですむことはあり得ないな」
とまるで独り言のようにつぶやきました。
次にお祖母さんは少女に
「あなたより物質的に豊かな人がたくさんいるけれども、人の物を欲しがるような気持ちは起こしてはならない」
と話しました。するとまたお祖父さんが
「こんな若い子が、人が良い物を持っていたら欲しがるのは当たり前じゃないか」
とポツンと囁きました。
お祖母さんが少女に
「何があっても、決して人に迷惑をかけてはいけないよ」
と三つ目の心得を話した時も、お祖父さんは
「だけど、人間というものは迷惑をかけながら、お互いに支え合って行くものだ」
と言いました。
少女は二人の餞(はなむけ)の言葉を常に心の支えにしながら、生きていきました。そして、70歳になってその時を振り返りながら
「もしお祖母さんの言葉しか聞いていなかったら、“こうあらねば”という思いに縛られて精神的に行き詰まっていたでしょう。お祖父さんの言葉だけで生きていたら怠け者になっていたかも知れない。二人が共に人生の真実を伝えてくれたからこそ、ここまでくることができました」
としみじみと語りました。
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