金沢文庫に入ると平日に関わらず、多くの人がいます。やはり、運慶展は人気がありますね。今回の展示では七体の運慶仏が展示されていますので、それぞれを拝観していきましょう。
・円成寺 大日如来像
運慶仏の中で、最も若い時に造られた像で、今回の目玉展示でもあります。デビュー作がこれですから、やはり、運慶は凄いです。この像を造るのに十一ヶ月かかっていますから、運慶も時間を掛けてしっかり造ったのだろうと想像が出来ます。
円成寺では多宝塔の中に祀られており、見やすいとは言いにくいですが、今回の展示では明るく見やすいです。
右耳を見ると髪がかかっていました。左耳にはなかったですが、おそらく、とれてしまったようです。千葉の妙楽寺で大日如来像を拝観した時、耳に髪がかかっており、珍しいなと思ったのですが、大日如来像では耳に髪がかかるのはよくあることなのでしょうか。
大日如来像は肩に髪がかかっているものがありますが、円成寺像は右肩にのみ残っていました。私は大日如来像の肩にかかっている髪の姿が好きですので、大日如来像を拝観した時にはついつい確認してしまいます。また、組んでいる両足を見ると、細かく造られているなと感心しました。
関東で円成寺の大日如来像にお会いできる。これだけでも、今回の展示に来る価値はあると思います。
・光得寺 大日如来像
厨子の中に大日如来像が安置されています。蓮華坐の下に獅子がおり、厨子の中に雲に乗った小仏が祀られているのが特徴的です。この像は運慶が東寺・講堂の仏像を修復してから造っているので、今回展示されている三体の大日如来像の中では、空海の時代の東寺・大日如来像に一番似ていることでしょう。
この像と次の真如苑の大日如来像は、共に足利義兼が発願者です。足利氏は東大寺・盧舎那仏を信仰していたらしく、「盧舎那仏=大日如来」から、大日如来像をよく造らせていたそうです。
・真如苑 大日如来像
この像が紹介される時には、必ずオークションにおいて高額で落札された話がでてきます。でも、この像が日本人に落札されてよかったですね。そうでなければ、このように拝観することは出来なかったでしょう。
この像もほんとうに素晴らしいものです。光得寺、真如苑の大日如来像、次の滝山寺の帝釈天像は後ろ姿も見ることができるようになっていました。
・滝山寺 帝釈天像
この像を拝観するのは今回が初めてです。江戸時代に色が塗られたと聞いていましたので、どんな感じかなと思いましたが、全然悪くはなかったです。
衣がすごく丁寧に彫られているなと感じました。特に背中部分の衣が良かったです。
滝山寺では、本尊が聖観音、脇侍として、梵天、帝釈天が祀られています。聖観音、梵天、帝釈天の三尊形式は珍しいですが、これは、かって宮中にあり、現在は東寺に安置されている二間観音をモデルにしていると思います。
・浄楽寺 毘沙門天像、不動明王像
浄楽寺の毘沙門天、不動明王像は玉眼を上手く使用した写実的な像で、運慶といえばこのような像を思い浮かべる人が多いと思います。毘沙門天像は目を大きく広げており、まっすぐ一点を力強く見つめているように感じます。
不動明王像は観る角度によって、随分印象が違いました。個人的には、向かって右側から観る姿が良かったです。
・称名寺光明院 大威徳明王像
この像は運慶最晩年の像です。今回の展示では、現存する最初の運慶仏と最後の運慶仏が展示されています。
欠損している部分も多いですが、こちらも素晴らしい像です。
この像は三代将軍・源実朝の養育係であった女性・大弐局が、大日如来、愛染明王と共に運慶に造仏を依頼したものです。少し前、実朝は運慶に釈迦三尊像の造仏を依頼しています。
「釈迦如来=大日如来」、「普賢菩薩=愛染明王」、「文殊菩薩=大威徳明王」から、実朝が発願した釈迦三尊像と大弐局が発願した三尊には何らかの関係があると考えることができるそうです。
この当時、実朝は有力御家人であった北条氏等と衝突するようになります。実朝の身の危険を感じた大弐局は実朝の無事を祈願する為に運慶に三体の密教仏の作製を依頼したのでしょう。大威徳明王の顔は一般に憤怒相ですが、こちらの像は忿怒相の中に実朝のことを思う大弐局の優しい気持ちが含まれています。
このように七体の運慶仏を拝観しましたが、どの像も素晴らしく、それぞれをゆっくり拝観していたい気分でした。

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